米国の大手通信企業AT&Tを紹介します。
AT&Tの概略
AT&Tは米国の大手通信・メディア企業です。
会社名は旧社名 American Telephone & Telegraph Company(アメリカ電話・通信会社)を略してAT&Tとしています。
現在は主に3つの事業を保有する、グループ会社です。
AT&Tの主要3事業
① AT&Tコミュニケーションズ
② ワーナーメディア
③ AT&Tラテンアメリカ
まず、それぞれの事業を簡単に紹介します。
①AT&Tコミュニケーションズ
AT&Tコミュニケーションズは、米国で通信サービス事業を展開しています。
1100億ドル(約12.5兆円)と巨大事業で、米国では現在第3位のシェアを占めます。
【主な競合企業】
・第1位:ベライゾン・コミュニケーションズ
・第2位:Tモバイル
②ワーナーメディア
ワーナーメディアは、世界最大級のテレビ・映画スタジオを運営するメディア事業です。
タイムワーナー社の事業でしたが、2018年に買収され、AT&Tの傘下となりました。
ケーブルテレビの「HBO」や映画専門チャンネルの「Cinemax」、CNNなどの報道ニュース事業が含まれます。
③AT&Tラテンアメリカ
AT&Tラテンアメリカは、メキシコでの通信サービスを展開し、南米とカリブ海諸国全域でエンターテイメントサービス(ヴィリオ)を提供する事業です。
特にヴィリオは「DIRECTV」と呼ばれる衛生放送ブランドを保有し、ラテンアメリカに1,000万人以上の有料契約者を持つ成長事業です。
メディア事業進出失敗 と 通信サービス事業への集中
AT&Tは、2018年にタイムワーナー社を買収しました。
この買収の狙いは以下の2つです。
・メディア事業を取り入れ、頭打ちとなった通信事業に変わる収益源を確保
・携帯端末でドラマや映画コンテンツを提供して、既存の通信事業を成長
「携帯電話市場の成長が停滞し、ケーブルテレビや衛星放送のサービスからモバイル端末などで視聴できるより安価なストリーミングサービスに切り替える消費者が増えるなか、AT&Tなどの通信会社は新たな収益源の確保が必要となっており、コンテンツ制作会社の買収が1つの手段とみられている。」
引用元:米地裁、AT&Tのタイム・ワーナー850億ドル買収を承認 | Reuters, https://jp.reuters.com/article/time-warner-m-a-at-t-idJPKBN1J8331
しかし、実際には事業収益は伸びず、買収にともなう巨額負債が経営を圧迫しました。
AT&Tは苦しい経営状況を好転させるため、21年にメディア事業の「スピンオフ(分離独立)」を決定しています。
また、成長事業であるにも関わらず ヴィリオ事業の30%分を売却する と発表しています。
このように、AT&Tは メディア事業から撤退し、通信サービス事業に集中する選択をしました。
通信サービス事業の状況
現在、通信業界は5G革命の初期段階を迎えています。
5G革命とは、現在の通信規格(4G)を第五世代(5G)へと進化させ、通信データ量や速度を飛躍的に向上させる取り組みです。
5G化により、家電製品のIOT化、自動運転の実用化、新たな通信サービスの創出などによる、通信事業の新たな成長が期待されています。
また、5Gサービスは競合他社の参入が難しいため、企業にとっては一度インフラを完成させれば、長期間安定した収益を期待できます。
しかし、5Gサービスの提供には通信周波数帯の確保や基地局の整備に莫大な先行投資が必要です。
AT&Tはこれまでメディア事業に経営資源が分散していたため、5Gへの投資が遅れていました。
今後は、事業売却で得た資金を投入して積極的に投資していくと考えられます。
株価チャート
AT&Tの株価推移をまとめました。
長期間の株価チャート
過去2001年頃まではアメリカの固定電話事業を支配していたため、AT&Tは株価が右肩上がりの優良企業でした。
しかし、近年では業績が頭打ちとなり、安定した株価上昇がなくなっています。
AT&Tは、すでに過去の資産を食い潰してしまった企業です。
直近5年間の株価チャート
直近5年間では下落トレンドが続いています。
これは2018年のメディア事業買収の失敗が大きな理由です。
また、5Gへの投資が重荷になり、将来の配当金が削減されることが予想され始めたため、現在の株価は5年間で最低の水準まで下落しています。
今後、株価が上昇するためには、5G革命の波に乗って、成熟した通信事業を成長事業へ変えることが必要です。
業績推移
AT&Tの業績推移をまとめました。
AT&Tは、約18.9兆円の売り上げを持つ巨大企業です。
今後もメディア事業からの撤退から、売上高が約3~4兆円落ちると予測されています。
また利益については、利益率が年々落ちており、2020年は赤字を記録しました。
今後、経営資源を通信サービス事業に集中して、利益を安定させることが求められています。
配当金
直近の年間配当利回りは8.14%です。(2021年10月31日のInvesting.comデータから引用)
長年連続増配していましたが、今後は業績の悪化から大幅な減配が予測されています。
過去、AT&Tは高配当・連続増配の優良銘柄として紹介されていましたが、現在は安定した利益を稼ぐ優良企業ではありません。
配当利回りの高さや連続増配記録は、優良企業を示す指標の1つです。
しかし、AT&Tは利益が減少しているのに配当を維持してきたことから、業績が悪化しても無理に配当金を出してる典型例であるため、注意が必要です。
投資アイデア
私の考え方や投資アイデアについて紹介します。
通信企業は今後他社に先駆けて5Gサービスを提供し、成熟した事業を成長させる必要があります。
5Gサービスを提供するにはインフラへの先行投資が必要であるため、大手三社(ベライゾン・T-モバイル・AT&T)以外は通信事業に新規参入できません。
つまり、3社の中から1~2社が5G革命の利益を得る勝者となります。
私は、ベライゾンが勝者となる可能性が高いと考えています。
理由は大手3社の中で財務状況が1番良好であり、5Gへのインフラ投資が順調に進んでいるからです。
AT&Tは、2番手としてT-モバイルに勝ち切れるかが今後のポイントです。
AT&Tに投資すべきか
「これからAT&Tに投資するか」と問われれば、私は「少額なら投資する」と答えます。
理由は、現在のAT&Tに期待する投資家はほとんどいないため、株価が割安であると考えるからです。
ただし、業績が改善することを確信できないため、大きな比率で投資することはできません。
今後アメリカの通信規格は5Gへと確実に移行するため、ベライゾン・T-モバイル・AT&Tのいずれかは5G通信業界の勝者となります。
私がこの業界から1銘柄を選ぶならベライゾンを選択します。
しかし、ベライゾンが必ず勝つ確信もできないため、T-モバイルとAT&Tにも少額ずつ投資しておくアイデアが考えられます。
つまり、通信業界のシェア順に「ベライゾン」>「T-モバイル」>「AT&T」の比率で投資することで、5G通信銘柄全体へ投資しておくアイデアです。
具体的には、ベライゾンへ50%~70%、残りをT-モバイルとAT&Tへ投資し、シェアや業績が変われば比率を調整すればよいと考えています。
まとめ
今回はアメリカの大手通信サービス企業のAT&Tを紹介しました。
同社はメディア事業から撤退し、5G通信事業への集中で復活を目指す5G銘柄です。
現在は業績悪化から非常に割安な株価であるため、将来的に業績が回復すれば大きな利益が得られる可能性があります。
「AT&T」や「ベライゾン」、「T-モバイル」のどれかに賭けるのではなく、5G銘柄全体に投資しておくのがおすすめの投資法と考えています。
皆さんの投資判断はいかがでしょうか?